NO.9｜ときどき日記

地元の新聞に『夏休みのこどもたちが昔の玩具と触れ合いました』という記事が載っていたのです。
その中に、『セルロイドの人形をはじめて触った子は力加減がわからず、人形をへこませて驚いていた』みたいなことが書いてありました。最近の子供はプラスチックの頑丈なおもちゃしか知らないから、手触りは固いけど強く掴むとベコッとなるものは扱いづらいらしいとのこと。
それを読んで、20年ぐらい前に「ファジィ機能」って言葉がやたらと流行った頃のことを思い出しまして。

「ねえお母さん、最近の小学生って昔のロボットみたいね。昔『機械に卵を掴ませるのは至難の業』みたいな話があったじゃない？　固いけど固くないっていうファジィな感覚をロボットに教えるのは難しいとかなんとかって」
「ああ、聞いたことあるかも。でもいまの子はけっこうそんな感じよ」
「え？　あはは、そうなんだ（笑）？」
「うん。バイトの面接するとき、最近は必ず『卵は割れますか？』って聞くようにしてる」
「え……もしかして大学生にもなって卵が割れない子がいるの？」
「そんなのザラよ。それこそ力加減がわからないの」

冗談かと思ったら、どうやら本当に『卵の殻にヒビを入れて、しかし中身はつぶさない程度の力加減』というのがわからない学生さんが少なくないというのです。とりあえずぐしゃっとつぶしちゃうか、おそるおそるすぎていつまでたってもヒビすら入れられないか。
なんていうか、力加減のスイッチが「強」「弱」の２種類しかないような子がけっこう多くいるのだとか。
※なんか長くなったので畳みます。

続き

「いまはまず最初から豆腐が掴める子っていうのがいないわね。教えてできるようになる子はもちろんいるのよ。デキる子は一度失敗してもすぐに覚えるし。でも、絶対にできない子っていうのがいるの。どうしても卵を割ったり豆腐を掴んだりする『ちょうどの加減』ができない子がいるの」

牛丼やさんで卵を頼む若者は生卵ぐらい割れると思うんだけど（見たことないけどたぶん丸ごと出てくるんですよね？）、たびたびそういう学生さんに接する母の印象では「最近の子は卵も割れない」になってるようです。
ちなみに母の分析によるとそういう意味での不器用さは（料理の経験があるなしではなく）「むかしと違っていまは家で動物を飼うことも少ないから、そっと強く触ることができない子が多いんだと思う」とのことでした。
それを聞いて「最近の子は取っ組み合いの喧嘩をしないから、いざ拳を使った喧嘩になると加減がわからず相手に深刻な怪我をさせてしまう」という話を思い出しました。
私が子供の頃はそれぐらい極端な『力加減』が取りざたされてたけれど、いまは毎日の生活レベルでの加減がうまくできなくなってるんだなあ、と。

……あのー、ただの余談というか妄想（感想？）ですが、豆腐をちゃんと手のひらに載せられる男の子はモテる子なんじゃないかな、とふと思ったりしました。好きな子の手を優しくしっかり握ったり、ちょうどいい強さで撫でたり、そういうことに慣れてそうな感じがするな、って。
それこそ同居してる動物を可愛がってきたとか、年の離れた弟妹（赤ちゃんとか）の面倒を見てきた子もあまり大雑把な指先をしてないだろうと思いますけども。

あ。あと、これはかなり仕方ないことだと思いますが、バイトの子になんの説明もなく栓抜きや缶切りを渡すとまず使えないそうです。現在二十歳前後の人は、ペットボトルの飲み物やパッカンと開くプルトップの缶詰しか知らないから。
言われてみればそうだよね、と思ったけど、いつの間にか栓抜きが業務用の特殊な道具みたいな扱いになっていて少々驚いた次第です。
いまの時代、缶切りで缶詰を開けただけで「すごい、そうやって開けるんだ。格好いい！」って恋人に尊敬される男子を書いてもいいんだな……たかが缶詰を開けただけで……みたいなことをなんとなく考えたりしました。

もちろん、いまの子は生まれたときからデジタル機器に慣れているから、キーを打ったり画面を指先で操作したり、手先が不器用（細かい動きが苦手という意味で）な私や私の親の世代が苦手なことを息をするぐらい自然にできるはずなので、一概に『子供の指先が鈍くなった』とは言えないと思います。
おそらく手の使い方が変わったってことだと思う。
でも、食材や植物や小さい生き物や自分以外の人間に上手に触れないと大きくなってから困ることも多いと思うので、固いけど脆いものとかぐんにゃりして持ちにくいものとか、泥とか、虫とか、猫とか、卵とか、豆腐とか、家族やお友達とか、いろんなものを触ったり掴んだりしながら育ってほしいなーと、まだ幼い甥姪のことを思い浮かべたりしております。
母曰く、卵が割れない学生が出てきたのはここ十年ほどのことだそうです。