NO.9｜ときどき日記

猫も通院してますが、私も歯科に通ったり整形外科に行ったりしてました。
ある日、正座から立ち上がろうとしたら右膝の内側に違和感を覚えて、まあそのうち治るだろうと放っておいたら歩くと少し痛むようになっちゃって。
手当てしなきゃダメだったか～と十日後ぐらいに近所の整形外科に行ったら注射一本と飲み薬で治ったんですが、「次回はこの日に来てください」と言われていたから「痛くなくなりました」と報告に行ったら、前回の女医さんではなくおじいちゃん先生（たぶん院長）に
「痛くないって、あんたそれ薬で抑えてるだけだから。治ってないから。ここの筋肉を鍛えないと関節なんてどんどん悪くなるからね！　リハビリ室で足の体操覚えて帰って。あと静脈注射一本ね！」
とお年寄り向けの大きな声で叱りつけるように言われてしまい、話し方が怖いのはどうやらその人のデフォルトっぽいのでさておき、「え？　痛くないのに注射するの！？」とものすごくショックでした……。

私には注射されると悲しくなるという、ちと意味のわからない習性がありまして。
「たぶんこれは注射だろうな」と覚悟して行ったときは全然平気なのに、予想してないときに注射を打たれるとものすごく悲しくなってしまう。
え、なんでなんで。そんなつもりじゃなかったよ！？　そんなことしていいって言ってない！　みたいな言葉が頭をぐるぐるしちゃって（さすがに口には出しませんけど）、注射のあとは悲しくて悔しくて泣きそうになり、なんだかやたらと落ち込んでしまう。
ついでに針を刺された場所でも患部でもない部位が唐突に痛み始めたりもする。

注射なんてたいして痛くもないのに、っていうか血液検査はハイハイと二つ返事でやってもらうぐらいなのに（だから針が嫌ってわけでもないはずなのに）、なんで注射だけこんなにおかしな反応をしちゃうんだろう。
と前々から不審に思っていたんですが、先日の静脈注射をちょっと失敗されて次の日まで腕の内側がずきずきしてたおかげでずっと注射のことを考えていて、それでようやく思い出しました。

そういえば私、小学校の最初の予防接種で逃げたんだった。

続き

思えばそれまでは全然平気だったんです、注射。園児の頃は。
少しチクッとするぐらいなんでもないし、母がいつも以上に優しくしてくれるし、帰りにアイスを買ってもらえたりしたし。小児科の先生は優しくて、病院は甘いお薬がもらえるところだから行くのが楽しみで、「今日は注射をしますよ」と言われるとちょっと嬉しいぐらいだった。

でも小学校の予防接種は全然違ってて。
お医者さんが来ているというはじめて入る部屋（教育実習生の控え室に使う部屋だったかも）に連れて行かれて、それだけでも「ここどこ？」って心細くなっていたのに、出席簿順に並ばされちゃって。
身長順じゃなかったから学年で2番目に小さかった私には前が見えなくて、その見えない前の方で男子が「いてー！」って大げさに騒いだりしていて。そのせいか周りの女の子達も「こわいね～」ってひそひそ言ってて。
『注射＝怖い』という発想がなかったから混乱して、かなり焦ったんだと思います。だって注射って、悲鳴をあげるほど痛いものじゃない。どうやら私が知ってるのと違うものみたいだ、と。
なんだかわかんないけど、いまからものすごく痛くて怖いことをされるらしい……と緊張してドキドキしてたら、突然「次の人！」って看護師さんに腕を引っ張られたんですよね。ぐいっと強く。たぶん私が怯えて前に足を出せなかったんでしょうけど。
それがダメだった。乱暴な仕草にびっくりして、我慢できなくなってつい逃げちゃった。
我ながらあのときの自分は動物じみていたなあと思うんですが、「こら、待ちなさい！」みたいなことを言われて走って、隅にあった長机の下に滑り込んでぎゅっと丸くなったところで誰かに服を掴まれ、猫の襟首を掴むようにしてずるずると引っ張り出されました。
看護師さんに腕を掴まれて「痛い！」とびっくりした瞬間のことと、その服を引っ張られる感触と、机の脚を掴んだ手を大人の指に引き剥がされたことをよく覚えています。
注射の痛みは覚えてませんが、白衣を着た人の前で腕や肩をがっちりと掴まれて痛かったこともよく覚えてる（羽交い締めにされて予防接種を受けたのかしら）。
怖くて何も言えなかった気もするし、「やだやだやだやだ！」ってじたばたしたような気もします。両方だったのかな。
何十年も前のことなのでその辺は曖昧ですが。

もしかしたらその出来事がちょっとしたトラウマ的なものになってるんじゃないかな～、と。
小3の予防接種は担任の先生の服の裾を握らせてもらって会場になっている教室に行ったし。そうしないと足がガクガクして歩けなかったから。
きっと幼い私は『机の下に逃げるほど嫌だったのになだめすかしてもらえず、よってたかって大人に痛い目に遭わされた』と感じて、子供心にだいぶショックだったんじゃないかしら。
まあ、いきなり逃げ出した私が悪いんですけども。
――ということを思い出して納得したので、次からは予期せぬ注射もわりと平気になりそうです。こういうのって言葉で説明できるとだいたい解消されるから（私の場合）。

そしてトラウマなどとは一切関係なく、単純に痛かったり音が怖かったりするから苦手な歯医者にまだしばらく通わなくてはいけないのがちょっと憂鬱です。
最近は麻酔がよく効くから大丈夫、と自分に言い聞かせてるんですが、あの削る音がどうにもこうにも恐ろしくって。音だけで痛い気持ちになっちゃって。
あの音、現代の技術ではどうにもならないものなのでしょうか。